三途の渡守

三途の渡守

◇声物語劇団より最新情報


シナリオ詳細
掲載元 声物語劇団 公式サイト
声物語劇団 オリジナルボイドラ劇場
作者 月宮東雲
登場キャラ数 不問:2
総セリフ数 94
製作日 2015/5/26〜2015/5/26
概要説明  気が付いたら紅い空の下、水面をゆっくり進む小舟の上にいた。
軋む音と、水をかき分けて進む音、水がはねる音…それ以外は静まり返りただただ無音が広がる世界。
舟はゆっくりゆっくり終わりの始まりの冥界へと向かう――
利用にあたって 利用規約
目安時間
登場キャラ セリフ数 性別 備考
死者 50 気が付いていたら死んでいた人間
セン 44 三途の川の渡し守。小舟をこいで死者を冥界に連れて行く仕事をしている






【三途の川】(小舟に揺られ目を覚ます)

001 死者 「…ん」
002 死者 軋む音に水を掻き分けるような音。ゆっくり、ゆっくりと動いている
003 死者 真っ暗な視界から紅の空が飛び込んでくる
004 死者 「ここは…」
005 セン 「お、気が付いたかい」
006 死者 船首に立っていた者が振り返り、ニッと笑う。
007 セン 「起きないようならば蹴っ飛ばしてでも起こそうかって思っていたところだったけど」
008 死者 …見知らぬ顔
009 死者 「そんなことより、ここはどこで、自分は一体…」
010 セン 「ああね。ここは三途の川で、舟の上さね。自分が誰か分からない?ここに来た時は結構みんな混乱しているからね。ゆっくり思い出せばいいさね」
011 死者 「三途の川…」
012 セン 「聞いたことくらいはあるだろう?死者があの世へ渡る時に通る川さね。臨死体験とか言って、乗る手前までの者もいるけど。」
013 死者 「死者…私は死んだの?」
014 セン 「そうさね。死んだからここにいる」
015 死者 「何で…?」
016 セン 「さぁ?あっしはただの三途の川の船頭なだけだからね。詳細は知らないさ」
017 死者 「死んだんだ…」
018 セン 「この舟に乗ったらおしまいさ。現世に帰れるなんて考えは捨てるべきさね」
019 死者 「どうして?」
020 セン 「見ての通り、一面の川さね。そして厄介なことに一度川に落ちたら二度と浮かんでこないのさ」
021 死者 「沈むの?」
022 セン 「浮力なんてないからね。ただただどこまでも沈んでいくさね」
023 死者 「泳げないの?」
024 セン 「泳げる者を見たことがないね」
025 死者 船頭は少し考える仕草をし、ポンと手を叩いた
026 セン 「そう言えば昔、水泳の世界選手とかいうのを彼岸に運ぶ際に、舟から飛び込んで沈んだってのを聞いたね。そりゃ傑作だったね。死神たちや冥界でも一時は話題の人になったさね」
027 死者 「へぇ…」
028 セン 「…さて、と。名乗り忘れたね。あっしは三途の川の船頭。そうだなぁ…センとでも言っておこうか。人間たちが発音できる名前の方が分かりやすいだろうからね」
029 死者 「発音できる名前?発音できないの?」
030 セン 「〜〜〜〜」
031 死者 「…もう一回」
032 セン 「〜〜〜〜」
033 死者 「聞き取れないや」
034 セン 「だろうね。あっしらの言葉は波長的に聞き取れないらしいからさ」
035 死者 「じゃあセン…かな。その発音できない言葉に近い名前なの?」
036 セン 「昔あっしが乗せた子が気を利かせてつけてくれたのさ」
037 死者 「そうなんだ」
038 セン 「三途の川の『川』と船頭の『船』をかけたんだとさ。なかなか洒落てるだろ」
039 死者 「ふーん…」
040 セン 「むかしむかしのお話さ」
041 死者 「…死んだんだ」
042 セン 「なーに、お前さんだって死んでるんだし、ここには滅多なことがなきゃ死者しか訪れんさ」
043 死者 「…どこに向かっているの?」
044 セン 「冥界さ」
045 死者 「冥界…」
046 セン 「黄泉の国って言えば分かるかい、死者がみーんな行くとこさね」
047 死者 「どれ位で着くの?」
048 セン 「残念ながらお前さんは無一文でここに来たから長い旅路になるだろうさね」
049 死者 「無一文…お金なら」
050 セン 「お前さんは何も持ってさいないさね」
051 死者 「何も…?」
052 セン 「死んだら荷物は全て現世に置き去りで、死後の世界に持ち込めるのは精神だけさね」
053 死者 「ほんとだ…何もない」
054 セン 「向こうの世界でどんなにお金を稼ごうが、こちらの世界では価値のないことさ」
055 死者 「貧乏人も金持ちも関係ないってこと?」
056 セン 「と言いつつも地獄の沙汰も金次第って言葉があって金を積めば、冥界審判の順番が早くなったり、三途の川を渡る時間が短かったり様々なんさ」
057 死者 「三途の川という割には、まるで海のような川だね」
058 セン 「面白いことに人によって小川だったり、大海だったり、湖だったり様々変化するんさ」
059 死者 「ランダムで?」
060 セン 「その人の生き方次第とも言われるさね」
061 死者 「生き方?」
062 セン 「ま、後悔先に立たずって言うんだっけさね。後の祭りか。今更どうしようもないことだからさね」
063 死者 「まぁ確かに知ったところでね」
064 セン 「冥土の土産ってヤツさね。運がよくて生まれ変わるようなことがあれば、次は善行でも積めばいい冥界ライフが送れるかもさね」
065 死者 「生まれ変わって前世の記憶って残るものなの?」
066 セン 「人によってある日突然思い出したり、ふとした瞬間記憶を呼び起こされることもあるんだとかさね」
067 死者 「そういうものなんだ」
068 セン 「今を精一杯生きられるよう前世の記憶は消えるよう人間の脳はできてるとも言うそうさね」
069 死者 「そりゃそうか…どんな人生を歩んできたのか今も忘れているのに次に引き継ぐかも分からないよね」
070 セン 「そうさね。次に生まれ変わるのが人間とも限らないわけだし。虫かも知れないし」
071 死者 「虫!?」
072 セン 「ま、それはあっしらの預かり知らぬ、閻魔様たちのさじ加減ってやつさね」
073 死者 「…輪廻転生か」
074 セン 「そいや昔面白いことを言っていた奴がいてな、仮に皆輪廻転生をしているのであれば絶対量は殖えないのではないかってさ」
075 死者 「どういうこと?」
076 セン 「あー仮にAさんが亡くなって、Aさんが生まれ変わったBさんが誕生して、Bさんが亡くなってその生まれ変わりのCさんが誕生したら記憶がどうのってのはあるけど、Aさんが脈々と転生を続けていることになり、最初に誕生した人類は限られた数になる」
077 死者 「ちょっ、ちょっと待って」
078 セン 「まぁなんさ、分かりやすく言えや、人類誕生時に生まれた奴等が10人死んで新しく8人生まれたら全員が転生組で、残り2人も次の誕生時に補給され、相対的に殖えることがない。…という仮定さ」
079 死者 「それじゃあ仮に10人死んで15人生まれた場合は?」
080 セン 「5人は新しい誕生になるだろうさね」
081 死者 「そうなれば全体的に殖えるんじゃない?」
082 セン 「だが実際には誕生する人類の数は年々減少。先程言ったような死ぬ人数より新な誕生は少ない。過去に死んだ人数を考えればあながち完全否定はできないわけさ」
083 死者 「今生きている人が過去を転生してきた人たちってこと?」
084 セン 「そうさね。そして輪廻転生には、すぐできる人と待ちがある人もいるんさ」
085 死者 「そこで辻褄が合うようになっていると?」
086 セン 「そういうことだろうさね。まぁ、詳しいことはあっしらの預かり知らぬことさね」
087 死者 「…ここの空が紅いのは?」
088 セン 「あぁよく訊かれるさね。ま、灼熱地獄の炎が空を染めてると回答してるさ」
089 死者 「本当のところは?」
090 セン 「誰も知らないさ。興味がないからさねー」
091 死者 「そうなんだ」
092 セン 「さ、冥界府までまだまだかかるよ」
093 死者 こうして舟は私を乗せて生き物の音のない世界をゆっくりゆっくり滑るように進んでいった―――






作者のツブヤキ
 度々書いてきましたが、彼岸やら三途の川やら、死後の世界というのはよく描いている話ですね。
これは宗教観や思想で様々な諸説のある世界ですので広がるお話ですよね。
何からこういった情報を仕入れて、こういう世界観が出来上がったのかが未だもって謎です。
彼岸を渡る時は一対一なんだろうか。それともギッチギチに詰められるんですかね。
もし自分が三途の川を渡る時は気楽に話しかけてくる渡守だといいなぁ

今生きている人たちは昔生きてきた人たちの輪廻転生だけという説はあんまり現実的ではないですよね。
もし、ほとんどの人が輪廻転生ができるのであれば一度はどこかの時代で生きてきた人なんではないかと
そんなことを思ったので書いてみました。死生観はほんと様々ですね、哲学。解明される時はくるのか。

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