この空の下で

この空の下で

◇声物語劇団より最新情報


シナリオ詳細
掲載元 声物語劇団 公式サイト
声物語劇団 オリジナルボイドラ劇場
作者 月宮東雲
登場キャラ数 :3:2
総セリフ数 268
製作日 2011/1/4〜2011/1/7
概要説明  たまたま自殺しようとしていた場面で自殺しようとしていた女の子を見つける
そしてさらに飛び降り自殺しようとしていた男をつい止めてしまった。
よくよく話を聞くと三人とも悩みを抱え、それぞれ死のうと考えていた。
敦賀屋の提案で死ぬ前に思いっきり遊ぶことになるのだが…。
利用にあたって 利用規約
目安時間
登場キャラ セリフ数 性別 備考
つばさ 75 メガネを掛けた会社員。上司から理不尽な怒られ方が続き、ノイローゼ気味。
空大
(くうだい)
73 誰からも必要とされていないと家に閉じこもっていた。他人を思いやる心を持ち合わせている。
越谷 美代
(こしたに みよ)
29 敦賀屋の後輩で調子を合わせるが、腹にはドス黒い物を抱えている。〜ッス口調の明るい娘
敦賀屋 燕
(つるがや つばめ)
79 高校バスケ部で大会の選抜に選ばれたが、後輩を庇って選手生命を絶ってしまう。
上司 10 つばさの会社の上司。罵ったり人を馬鹿にすることによって優越感に浸っている。






【ビルの屋上】(フェンスの側に立ち尽くす空大)

001 空大 「飛べよっ!飛べってば!」
002 空大 …ダメだった。今日も飛べなかった。激しく吹き付ける風が体を撫でる。だけど…僕を押してはくれなかった
003 つばさ 「生きてる価値、存在意義。生まれて来た意味」
004 敦賀屋 「何のために生きる」
005 空大 「何のために生き続けなければいけない」
006 敦賀屋 「広がる空の果てに見える先は何?」
007 つばさ 「空の果てには何がある」



【放課後】(街中を歩く敦賀屋を見つけ、声掛けに小走りでやってくる越谷)

008 越谷 「敦賀屋先輩!」
009 敦賀屋 「あぁ、越谷」
010 越谷 「選抜入りおめでとうございまッス」
011 敦賀屋 「ありがと」
012 越谷 「いやぁ、自分もまだまだッスね」
013 敦賀屋 「越谷ももう少しだったじゃん。僅かな差」
014 越谷 「勝負の世界はその僅かが命取りッスよ」
015 敦賀屋 「越谷には身長差で勝ったようなもんだし」
016 越谷 「ズルいッスよ、何スか?この20センチ差。これは僅かでも何でもないッス」
017 敦賀屋 「越谷も牛乳たくさん飲めばいいさ」
018 越谷 「先輩と違って縦じゃなくて前後に伸びちゃうッスよ」
019 敦賀屋 「ま、身長関係なく頑張れば選抜になれるよ。越谷は」
020 越谷 「お世辞なんていいッスよ。今回選抜で行けんのは敦賀屋先輩で、ウチじゃないッスから」
021 敦賀屋 「そうむくれんなって、今度飯おごってあげるから」
022 越谷 「別にそんなんじゃないッスよ!まぁ…戴けるもんはもらうッスけど…」(赤信号に気付かず横断)
023 敦賀屋 「越谷ッ!信号ッ!!」
024 越谷 「え…?」
025 敦賀屋 「伏せろっ!越谷ッ!!」(車に気付き、越谷を庇いに駆けだす)
026 越谷 「敦賀屋先輩ッ!!」(車に轢かれ弾き飛ばされる敦賀屋)
027 敦賀屋 「く…腕が…」(両腕に激痛が走る)
028 越谷 「先輩ッ…先輩ッ!」(敦賀屋に駆け寄り、青ざめる)



【病室】(ベッドに座る敦賀屋と見舞いに来た越谷)

029 越谷 「あ…」
030 敦賀屋 「越谷…」
031 越谷 「調子…どうッスか?」
032 敦賀屋 「…見ての通り元気さ。越谷は無事だったようで…良かった」
033 越谷 「お蔭様で、すり傷程度ですんだッス」
034 敦賀屋 「そっか…良かった。今日はお見舞い?」
035 越谷 「まぁ、そのつもりだったんスけど…コーチから伝言預かってて」
036 敦賀屋 「伝言?」
037 越谷 「その腕なら先輩、選抜無理ッスね…」
038 敦賀屋 「この腕…?あ、んと打撲だから全然…それにすぐに退院だって…」
039 越谷 「嘘…」(敦賀屋の腕を握る)
040 敦賀屋 「痛ッ…」(激痛に顔しかめる)
041 越谷 「こんな身体でバスケなんてできるって思ってるんスか?」(敦賀屋を見下ろす)
042 敦賀屋 「こんなのすぐ治…」
043 越谷 「先輩。選抜なめてません?ちょっとばかしウチより背高くて記録良かったからってサ」
044 敦賀屋 「越谷?」
045 越谷 「先輩がこうやってサボってる間にも他校の選手は練習してんスよ」
046 敦賀屋 「サボってるって…別に好きで練習休んでるわけじゃ…」
047 越谷 「だから先輩よりしっかり練習できるウチが選抜に選ばれたッスよ」
048 敦賀屋 「え?」
049 越谷 「練習もできない木偶の坊は用済みだって言ったんスよ」
050 敦賀屋 「越谷?何言って…」
051 越谷 「敦賀屋先輩の代わりにこの越谷が選抜の選手になったって話ッス。要は先輩はクビってことッス」
052 敦賀屋 「嘘…」
053 越谷 「ま、先輩は身長ぐらいしか取り柄なかったスしね。ウチの技術でディフェンスはカバーできますし」
054 敦賀屋 「私選抜に間に合う…それまでに絶対退院できるから…」
055 越谷 「もう監督もコーチも決めちゃったッスから遅いッスよ?まぁ、先輩も正直ざまぁって感じなんスけどね?」
056 敦賀屋 「ぇ…?」
057 越谷 「身長差でいっつも人を見下ろしてサ…。たまには見下ろされればいいッスよ」
058 敦賀屋 「別に見下ろしてなんか…」
059 越谷 「あ、ウチを怨まないで下さいッスよ?ウチが悪いんじゃないッスから」
060 敦賀屋 「人助けして怪我して…」
061 越谷 「そだ、どうせ戻ってきてもポジションないッスから、いっそ辞めたらどうッスか?デカイのがいるだけで迷わ…いやいや。ね?」
062 敦賀屋 「越谷?」(眉をつり上げる)
063 越谷 「選抜の練習して来るッスわ、じゃあ、時間の無駄なんで」(一瞥し、立ち去る)
064 敦賀屋 「馬鹿みたい…何してるんだろ…。ノッポなだけのでき損ない…。私って何のために生きてるんだろう…」



【社内】(人々が忙しそうに書類を抱えながら走り回っている)

065 上司 「おいっ!加藤ッ!」
066 つばさ 「はいぃっ!」
067 上司 「『はいぃっ』じゃねぇ!なんだこの書類は」
068 つばさ 「依頼されていました報告書です」
069 上司 「こんな報告でできたつもりかっ!こんなの小学生でもできるぞっ」
070 つばさ 「申し訳ありません…」
071 上司 「今すぐ作り直せ。フォントはゴシックじゃなくて明朝だろ」
072 つばさ 「修正すべきところはそこだけでしょうか?」
073 上司 「自分で考えろっ。何、人に頼ってるんだ」
074 つばさ 「申し訳ありません…」
075 上司 「ったく、使えないな。おい、加藤。お前の代わりなんて幾らでもいるだぞ」
076 つばさ 「はぁ…」
077 上司 「お前みたいな使えない奴なんかよりよっぽどいい。お前は小学生より使えないんだよ」
078 つばさ 「申し訳ありません…」
079 上司 「申し訳ありませんしか言えないのかってよ。バカみたいにそればっかで」
080 つばさ 「いつからだろう…社会の歯車になって、ただひたすら仕事をこなしてロボットみたいになったのは」
081 上司 「大体お前は…辞めてくれた方がありがたいっての」
082 つばさ 「理不尽な上司の注文をただひたすら頭下げながら聞き、人間味を失っていくのは…」
083 上司 「おい、聞いてんのか加藤!おいっ!」
084 つばさ 「もううんざりだった。上司の小言も、社会の歯車も…」



【ビルの屋上】(フェンス越しに立つ空大)

085 空大 「僕はいらない子…世の中から必要なんてされていないんだ…。どうして望まれもしないのに生まれてしまったのだろう…」
086 空大 「誰からも疎まれ、邪険にされ、必要とされない…。誰も理解してくれない誰も理解しようとしてくれない」
087 空大 「それは犯罪者と同じ思想だって?誰も理解してくれないということが犯罪者だって言うの?」
088 空大 「もう疲れた。疲れたよ…。ここから飛んで全て終わらせたらどれほど楽なんだろう…」
089 敦賀屋 「…部活一本で生きてきて、まさかこんな結末になるなんて…」
090 空大 「誰が望んだ結末なんだよ…こんな結末だなんて…。だったら最初から生まれてきたくなかった…」
091 敦賀屋 「この高いところから飛べば…全てを終わらせることができるのだろうか…」
092 空大 「今日こそ…ここから飛んで…」
093 敦賀屋 「死んで全て、なかったことに…なかったことに…」(フェンスに足をかける)
094 空大 「…おい」(敦賀屋に気付き、声掛ける)
095 敦賀屋 「え?」(キョロキョロと見回す)
096 空大 「お前だよ、お前」
097 敦賀屋 「…私?」
098 空大 「そう。お前だ、お前。何してるんだ?こんなところで…」
099 敦賀屋 「私はその…あの…」(狼狽する)
100 つばさ 「あぁぁぁあああああっ!もう死んでやる!死んでやるぅうううっ!」(屋上に現れ、フェンスに駆け寄る)
101 空大 「うわっ、ちょっと!」(つばさに駆け寄り、腕つかむ)
102 敦賀屋 「落ち着いて下さいっ!」(つばさを押さえる)
103 つばさ 「うるさいっ!死ぬんだ!死なさせてくれっ!こんなところで生きていたくないっ!」(フェンスに足掛ける)
104 空大 「早まるなって!」
105 敦賀屋 「落ち着いて!」
106 つばさ 「俺にかまうなっ!俺なんかいてもいなくても代わりが幾らでも居るんだ!!」
107 空大 「冷静になれって!」
108 つばさ 「うわぁぁあああっ…って。君たち何でこんなところにいるの?」(冷静になる)
109 空大 「冷静になり過ぎっ」
110 つばさ 「熱は冷めやすいものさ…」
111 敦賀屋 「…その」
112 つばさ 「君たちも本当は自殺しに来たんじゃないのか?」
113 空大 「いや…別にその…まぁ、なんというか」
114 敦賀屋 「そういうわけじゃ…」
115 つばさ 「まぁ、他の人が自殺しようとしたらついつい止めちゃうものな。俺だってその場に居合わせたら止めてたな、きっと」
116 空大 「あの…僕、悪いことしましたか?」
117 敦賀屋 「私ったら余計な事を…」
118 つばさ 「余計っちゃあ、余計だったかもしれないけどな。死にたかったのに死なせてくれなかったってのは」
119 空大 「仕切り直して死にます?」
120 つばさ 「野暮なこと言うねー、君」
121 空大 「いや…つい咄嗟に引きとめちゃって何だか今更申し訳なく思えてきて…」
122 つばさ 「もう死ぬ気が失せたよ…今はね」
123 敦賀屋 「何でそんなに死のうとしてたんですか…?」
124 つばさ 「それ聞いちゃう?聞いちゃうの?短いよ?」(目見開き、敦賀屋に顔近付ける)
125 空大 「このメガネ、ウザい…」
126 敦賀屋 「えぇ…まぁ…」
127 つばさ 「誰にだって悩みや苦しみはあると思う。それがつらいと思うことも」
128 つばさ 「それが仕事とか半一生のことだと尚、重荷となってのしかかる」
129 空大 「職場で嫌な事があったってこと?」
130 つばさ 「恥ずかしいことに…いや、恥ずかしくなんかない。理不尽な上司に罵られ、社会の歯車の一つとして酷使されてきた。もう限界なんだ」
131 敦賀屋 「転職とか…職場を変えるとかってダメなんですか?」
132 つばさ 「それができたら多分してるね。そうじゃない、俺は幾らでも代用がきく。そんな世の中に絶望しただけで…」
133 空大 「世の中を動かしているのは誰でもいい、使える人間・道具だってこと…」
134 つばさ 「そう考えたら自分じゃなくてもいいんだ…じゃあ、何のために頑張ってるのってなってね。…辛いことから逃げようとした」
135 空大 「辛いことから逃げる…」
136 敦賀屋 「…実は私も本当は辛いことから目を逸らしたくて…逃げたくて自殺しようって…」
137 空大 「そんな自殺しようって…いじめか何か?」
138 敦賀屋 「部活で選抜に選ばれて、これからだって時に後輩を庇って交通事故に遭って…選抜から外されただけじゃなくてその助けた後輩からも嘲笑われた…」
139 つばさ 「それはヒドイな…」
140 敦賀屋 「私許せなくて…。あそこで彼女を助けていなければ選抜に出れただろうし、こんな身体にもならなかったって…嘲笑った彼女も許せないけど…私自身を許せない…」
141 空大 「…そっか」
142 敦賀屋 「それに部活一筋でやってきたから…この部活ができなくなった体には何も残ってない。木偶の坊なんだって…」
143 空大 「そんなことない。…僕に比べたら…僕なんかに比べたら全然生きてていい人間だよ」
144 つばさ 「それはどういうことで?」
145 空大 「僕は望まれて誕生したわけじゃなかった。誰からも必要とされなかった。だから目立とうとしたんだと思う。悪戯とか人が嫌がることとか平気でやってきた」
146 敦賀屋 「……」
147 空大 「人様に迷惑かけて生きてきた。今は反省してる…だけどどうしてもやっちゃうんだ…」
148 つばさ 「人から必要とされたい、必要とされるには目立たないと…人間の持つ欲求だな」
149 空大 「誰からも必要とされず、迷惑だと思われるなら生きている意味はないじゃないか」
150 つばさ 「結局三人とも自殺志願者ってわけか」
151 敦賀屋 「そうみたいですね」
152 空大 「自殺しようと思う人が偶然三人鉢合わせるなんてこともあるんだね」
153 つばさ 「死ぬ前の縁なのかもしれないな」
154 敦賀屋 「…あの、どうせ死ぬならただ死ぬんじゃなくて何かしませんか?」
155 つばさ 「それは…人文字でもしながら飛び降りろと?」
156 敦賀屋 「そうじゃなくて…」
157 空大 「そうだなぁ、最後くらいは人様に迷惑かけないで死にたいな…」
158 つばさ 「飛び降りて下の通行人とぶつかった場合、下手すると通行人殺しちゃうことになるかもしれない」
159 敦賀屋 「それは申し訳ないな…」
160 空大 「これから死にゆく者がさ、先のこと心配してるなんて」
161 つばさ 「どうせなら人から喜ばれるようなことして死にたいかもな」
162 敦賀屋 「確かにそれ賛成」
163 つばさ 「場所を変えて話そうか」



【喫茶・青空】(隅の席で話す三人)

164 空大 「何をすれば人に喜ばれるんだろう」
165 敦賀屋 「臓器提供とか?ドナー登録って困ってる人を助けるんだよね」
166 つばさ 「けど、飛び降りたらドナーどころじゃないな」
167 空大 「睡眠薬とか?」
168 つばさ 「最近の睡眠薬は多量摂取しても死ねないと聞くな」
169 空大 「練炭とか、硫化水素とかか」
170 つばさ 「練炭はいいとしても硫化水素は近隣住民とかに被害が出る。それこそ多大な迷惑って奴だ」
171 空大 「樹海に消えるとか」
172 敦賀屋 「ひっそりだね」
173 空大 「メガネの兄さんは何かいい案ある?」
174 つばさ 「メガネの兄さん…あぁ、そういえばまだ自己紹介がまだだった。俺はつばさ」
175 空大 「僕は空大」
176 敦賀屋 「私は燕です」
177 つばさ 「短い間かもしれないが、こうして会ったのも何かの縁。一緒に色々考えて行こう」
178 敦賀屋 「そうだ、死ぬ前にどこか皆で行きません?」
179 空大 「旅行?」
180 敦賀屋 「私…合宿ばっかり行ってて修学旅行とか家族旅行に行けなかったんです」
181 空大 「旅行かぁ…」
182 つばさ 「もう何年も行っていないな。確かに、死ぬ前に思いっきり遊ぶのもいいな」
183 敦賀屋 「じゃぁ、どこ行きます?」
184 空大 「そこは定番の夢の国とか」
185 つばさ 「あそこはテッパンだよな。高いホテル泊まって、美味いもん食って遊びまくるとか…夢のような話だ」
186 敦賀屋 「夢の話じゃない。私たちだって行動を起こせば実現できるんですよ」
187 空大 「……」
188 つばさ 「俺運転できるし、車持っているから今週末にでもどうかな?」
189 空大 「もちろん予定なんて入るあてもないし、こっから先は真っ白になる」
190 敦賀屋 「集まる場所とか時間はどうしますか?」
191 つばさ 「場所はここ喫茶『青空』の前でで、時間はあとでメールを送るよ」
192 空大 「なんかわくわくするなぁ」
193 つばさ 「死ぬのがわくわくするっていうのも変なもんだな」
194 敦賀屋 「それじゃぁ、各自予定を考えてくるってことでいいですか?」
195 空大 「そうだね」
196 つばさ 「もうバッチリ頼むぜ」
197 敦賀屋 「各々考えるんですから『頼むぜ』じゃないですよ!」
198 つばさ 「そうだな、んじゃ、また週末にここで…空の下の諸君」



【約束の日の夕方】(遊園地やあちこち遊びに行き、宛もなく走っている車内)

199 空大 「あぁ、楽しかった!こんなに楽しんだの初めてだよ」
200 敦賀屋 「はしゃぎ過ぎちゃった…こんなにはしゃいだの初めてかも」
201 つばさ 「そりゃ良かった。ツアー組んだ甲斐があったってやつだ」
202 空大 「次はどこ行くんだっけ?」
203 つばさ 「んー、とりあえずみんなの案は出尽くしたって感じかな。全部回ったな」
204 空大 「意外と最後だって言うのに一日で回れちゃうもんなんだ」
205 つばさ 「考える期間が短過ぎたか…?」
206 空大 「それほど回りたい・見たいものって無いだけだよ」
207 つばさ 「いいのかい?行くところがなくなったら行くところは死界だぞ?」
208 空大 「樹海にでも行っちゃう?」
209 つばさ 「…燕ちゃんは寝ちゃったか」
210 空大 「はしゃぎ過ぎて疲れたのかと。今日一日一番はしゃいでいたし」
211 つばさ 「一番お洒落してきていたしなぁ」
212 空大 「可愛い服だよなぁ…。つばさなんか黒スーツにグラサンってどこの人って思ったもん」
213 つばさ 「いや、こういう時は正装かなって思ったらこうなった」
214 空大 「メガネのお兄さんが黒服のSPみたいになるってさ。まるでどこかのお嬢様を護衛してるみたい」
215 つばさ 「そうさ、燕お嬢様の護衛よ」(ミラー越しにおどけて見せる)
216 空大 「決まってる決まってる」
217 つばさ 「…なぁ、空大。ほんとにいいのかこのままで」(ミラー越しに空大を見ながら)
218 空大 「…いいとは思わない。だって…燕は全然死にたそうじゃないもの」
219 つばさ 「…だよな。あの時は陰りがあった。だが今は輝いている。俺たちがこの光を奪っていいもんじゃないだろうな」
220 空大 「…うん」
221 つばさ 「なぁ、降りたきゃ降りていいんだぜ?」
222 空大 「今からこの車から飛び降りろって?」
223 つばさ 「ばーか。そしたら俺だけ犯罪者にされるだろ。この地獄行きツアーの途中下車さ」
224 空大 「なんだ?ブザー押したら停車してくれるの?」
225 つばさ 「してやらんこともない…なんてなっ」
226 空大 「僕も後に引けなくなってんだ、終点まで着いてくよ」
227 つばさ 「そっか…。空大、お前…燕ちゃんの…」
228 空大 「何?」
229 つばさ 「いや、何でもねぇ」



【ビル屋上】(つばさと空大が燕を運び込む)

230 つばさ 「ふぅ…流石、背大きいだけあるな」
231 空大 「男二人が運んでやっとだ…」
232 敦賀屋 「うぅん…ここは?」(目をこすりながら目を覚ます)
233 つばさ 「地獄に着きましたぜ、お客さん」
234 敦賀屋 「嘘。…だってこんなに茜色の空が広がっているもん」(まどろみながらくすっと微笑む)
235 空大 「いや地獄…だね。地獄の入口」
236 敦賀屋 「ん…ビルの屋上?」(起き上がり、辺りを見回す)
237 つばさ 「そう。俺たちの出逢った場所。地獄へと走る俺を君たちが止めてくれた場所だ」
238 敦賀屋 「そっか…着いちゃったんだ。今日の終わり…ううん、人生の果てに」
239 空大 「燕さんはここに居てくれてもいい。…ほんとは死にたくないだろ?」
240 敦賀屋 「え?」
241 つばさ 「無理して俺たちと付き合って死ぬこともない」
242 敦賀屋 「何で…何でそんなこと言うの?」
243 つばさ 「燕ちゃんが無理して死にたくないのに死のうとしているから」
244 敦賀屋 「私だって死に…死に……みんなと一緒。みんなと一緒がいい!」(涙ぐむ)
245 空大 「…じゃ、一足先に。今日は楽しかったよ、ありがとう。君に出逢えて本当に良かった。つばささんも」(歩き出しフェンスへと向かう)
246 敦賀屋 「待って!待ってよ!!私、空大君のことが好きだからッ!必要なのッ!空大君のことが必要なのッ!」
247 空大 「…ッ」(足を止める)
248 敦賀屋 「誰も必要としてくれない?ここに、空大君のことを欲してる…必要としてる人がいるんだよッ!それでも放って逝くの?」
249 空大 「そんなその場限りの言葉…。引き留めたくて言ってるんだろ?」(俯きながら)
250 敦賀屋 「違う!好き!好きなんだよ!惚れやすいって思われてもいい。会って数日しか経ってないけど…可愛いって。一緒にいると楽しいねって言ってくれた!
嬉しかった…こんな木偶の坊な女に好きって言われても嬉しくないかもしれないけど…」
251 空大 「…僕にどうしろって言うの?死ぬなって言ってるの?」
252 敦賀屋 「…そう。そうッ!つばささんも空大君も死んでほしくない!もっと一緒に居よう?…ね、私と付き合ってよ…もっと私と一緒に居て欲しいの…」
253 つばさ 「いやはや…とんだツアーの妨害だなぁ」(頭かきながら)
254 空大 「全くだ…地獄行きツアーじゃなかったのか?」
255 敦賀屋 「ごめん…ごめんなさい…」
256 つばさ 「ま、交通事故の怪我で部活に出られないってだけで人生丸投げにするにしちゃ勿体ないしな」
257 空大 「地獄っちゃ、地獄だよ。女の子には泣かれるわ、死にたかったのに今は死にたくないわ、けどここまでくるともう後に引けないわって」
258 つばさ 「だとよ?お姫様、あのどーしようもない坊ちゃんを連れ戻してくれわ」
259 敦賀屋 「空大君…戻ってきて…これからも一緒に居てくれない…かな」
260 空大 「…僕も燕を必要としていいの…?」
261 敦賀屋 「うん…うんッ!」
262 つばさ 「広い大きな空に『つばめ』はよく似合うさ」
263 空大 「空に翼もね」
264 つばさ 「このでっかい大空の下で俺たちは生きている。必死にもがいて、足掻きながらな」
265 敦賀屋 「つばめさんも…」
266 つばさ 「どうやら地獄行きは往復だったようでな。運転手になったら一生死ねないみたいだわ」
267 空大 「…またいつの日にかこうして三人で出かけよう…」
268 敦賀屋 「またこの空の下で…」






作者のツブヤキ
 数年前から考えた考案をようやく形にすることができました。
人はきっと一度は死ぬことを考えたことはあるのではないでしょうか。自殺したいって。
こうして台本を書いている間にもどこかでは消え逝く命があると思います。
自分もいつ消えるかわからぬ命。この台本にいつまでも宿していたいと思います。
必要とされる人間は幸いだ…。

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